―――――八神家の4月1日―――――
「あー、今日はエイプリルフールやん。」
みんなで食卓を囲む八神家の朝。
目玉焼きを食べようとしていた手を止め、当主であるはやてが思い出したように口を開いた。
「エイプ…リル……フール?」
まだ眠い目を擦りつつゆっくりとした口調でヴィータが聞く。
「そうや。この世界ではなぁ、4月1日はエイプリルフール言うて、嘘をついても許される日ぃなんよ。」
「へぇ〜、そんな日があるんだ。」
ヴィータの声は先ほどよりも明るい。興味があるのか、眠気などすっかりさめたようだ。
「許される程度のならな。まぁそうは言うてもうちは人様に嘘つくんはどうかと思うねんけどな。」
「さすがです、主。」
シグナムが嬉しそうに相槌をうつ。人に仕える者にとって主が立派であることは、それだけで嬉しいものである。
まして騎士の精神を重んじるシグナムにとってはなおさらだ。
「せやけど社会で生きて行く上で時々は冗談も必要やと思うんよ。てなわけやからみんな、今日は嘘をつきまくろか〜!!」
いきなりの変わりようにシグナムは驚きの色を隠せない。一人困惑の表情を浮かべるシグナムにはやてが問いかける。
「なんやシグナム、なんか問題でもあるんか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……、騎士として嘘をつくのはいかがなものかと――――」
「うーん、まぁ嫌やったら別にええんやけどな。けどたまにくらいはハメ外すんも大切やで。」
真面目過ぎるシグナムを気遣っての発言。
たとえ自分の主義に反しようと主の意向には従うべきであり、自分を心配してくれているとあらばここはシグナムとしても従わざるを得ない。
「はぁ……そうですね、わかりました。主がそう言うのであれば。」
「よし、ほんならレッツエンジョイエイプリルフールや!」
「おーっ♪」
嘘をつく気満々のはやて、ノリノリなヴィータ、楽しげに笑うシャマル、いまいちノリきれないシグナム、そしているのかいないのかわからないザフィーラ。
それぞれのエイプリルフールがこうして幕を開けた。
嘘をつくと言っても、今嘘をつきまくろうと言ったばかりである。
誰もが警戒心を持っているであろう今、だますことは容易とは言えない。
自然、みんなは素直に朝食に箸を伸ばす。たがそんな中はやてはすぐに口を開いた。
「そや、今日の味噌汁はシャマルが作ったんやけど、味見したらごっつうまかったで。みんなも食べてみぃ。」
まだ誰も手をつけていなかった味噌汁をすすめるはやて。
だがその様子は心なしかシャマルとアイコンタクトをとっているように見える。
「ふふっ、そうなの。いっぱい食べてね♪」
とシャマル。
実に普通の会話に見えるが、守護騎士の将として戦闘や日常でも物事を冷静に判断するシグナムにとって今の流れは怪しいものだった。
主であるはやてが守護騎士たちにSLB並に危険なシャマルの作った料理をすすめたことなど一度もない。
そして今のアイコンタクトにシャマルの笑顔。
――主は嘘をついているのだろうか・・・?
当然シグナムとしてはシャマルの作った味噌汁が本当に食べられるものなのか疑わざるを得ない。
だがそこでシグナムの疑念を晴らす事態が起こった。はやてが味噌汁をすすり始めたのだ。
それも平然とした顔をして。シャマルの料理が暴発だったらこうはいかない。
――つまりは嘘ではないということか。
シャマル作・味噌汁が安全だと判断したシグナムはおもむろに味噌汁をすする。
「ふむ、お前の料理が暴発でないとは今日は雪でも・・・・・・・・・」
そこまで言いかけたシグナムだったが、突如として襲ってきた不快感に言葉がつまる。
悪寒が走り全身が震えだす。視界がぼやけているのか、どこか焦点の合ってない目ではやてのほうを見る。
「主、だまし・・たんで・・す・・ね・・・・・・」
その言葉を最後にシグナムは気を失って倒れた。
横ではヴィータもまさに倒れていくところだった。
「はやて・・・私を・・だま・・したの・・・?」
「シグナム!?ヴィータちゃんっ!!??」
自らの味噌汁に倒れる2人を見て気が動転するシャマル。だが彼女はそこで1つのことに気づいた。
「はやてちゃんは大丈夫なんですか!?」
当然の疑問である。誰よりも先に味噌汁を飲んだのははやてだ。その張本人はなぜ平然と笑っているのか。
「あぁ、うちのはな、自分でつくったインスタント味噌汁なんや。シャマルの料理なんて怖くて味見すらでけへんわw」
何食わぬ顔でシャマルにとって絶望的な一言を言ってのけるはやて。
「うぅっ、ひどい・・・あんまりだわ・・・・」
その場に泣き崩れるシャマル。
楽しいはずの朝のひと時が1つの嘘により家庭崩壊の危機へ突入する。
・・・・・・・・、っていう夢をみたんよ。」
みんなで食卓を囲む八神家の朝。
はやてが今朝見た悲惨そうな夢の話ををどことなく楽しげに語っている。
「はやてちゃん、かわいそうに・・・」
はやてのことを心配するシャマル。
同じくはやてのことが心配なヴィータだったが、彼女には今の話で最も気になったことが別にあった。
「それで今日の味噌汁は誰が作ったの?」
「あぁそれな、今日の味噌汁はシャマルが作ったんやでw」
ブフッ――――――――
笑顔で答えるはやての横で、シグナムの口から勢いよく味噌汁が吹き出された。
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