―――――あなたのそばに(2)―――――




目が覚める。ゆっくりと体を起こす。
時計を見ればいつもはまだ寝ている時間だった。
特に用事もなく、せっかくの休みだから気のすむまで寝ようと思い目覚ましをかけずに寝たというのに。
まだぼんやりしている頭に夢のことが浮かんでくる。
そういえば夢を見たな―――
夢を見たことは覚えているのだが内容は思い出せない。でも確かにお姉さまがいた。
カーテンから漏れる淡い光。悪くない寝覚めに、ぼんやり残る夢の感覚。
不思議と気分のいい朝だった。
お姉さま、か・・・・。
懐かしさが胸にこみ上げる。

―――恩を返したいのなら、あなたの未来の妹にでも

頭をよぎるお姉さまの言葉。
私はただお姉さまに迷惑をかけるばかりで、全然だめな妹だった。
ふと志摩子のことを思い出す。
私はお姉さまのように、心からの愛情を大切な妹に、志摩子に注ぐことができただろうか?
100パーセントそうとは言い切れない。時に自分勝手でわがままな私はきっと志摩子を困らせたりもしただろう。 けれどそれらも含めて志摩子とはいい関係を築けたと思う。
お互いがいてくれるだけで生きやすくて、とても安心できて。私たちはそんな姉妹だった。

でも―――
でも私はそれだけじゃなかった。
心地よく響く透き通るようなやさしい声。見るものを引き込むような神秘を湛えた深い瞳。志摩この何気ないしぐささえもが、私の心を乱し理性を奪う。
私だけには弱い一面も見せてくれて、それがたまらなく愛しかった。
狂おしいほどに志摩子を求めて、いつかは栞のように志摩子を自らの手で壊してしまいそうで、私は自分で自分が怖かったのだ。
私は自分を抑えるのに必死だった。

―――大切なものができたら、自分から一歩引きなさい

私はお姉さまのその言葉をかたくなに守った。
そっけなく振舞ってみたり、祐巳ちゃんに抱きついてみたりもした。
そうすることで志摩子が無事でいられるのならそうするより他はなかった。
それになにより、結局私は自分が傷つくのがとてつもなく怖かった。志摩子も栞のように私の前から消えていく、そんなこと耐えられるわけがなかった。
だから志摩子とは、お互いにそうだったけれど、べたべたしたり深く踏み込むこともなかった。
それでも私は志摩子を感じていたくて、その結果がつかず離れずであっさりした、そんな関係。
ずっとそんな感じできて、私は志摩子を救ってあげることもできないまま卒業してしまった。
でもこれで、これでよかったのだ。
私は志摩子を壊すことなく、志摩子は私の前から消えることなく卒業の日を迎えられたのだから。卒業して正直ほっとした。
私は無事に志摩子を守りきることができた――。


大学生活はそれなりには楽しんでいる。私も昔からすれば随分変わったものだ。
でもそのどこにも志摩子はいなくて。
まるで色のない景色のようで、私はいつもどこかで志摩子のことを求めている。
一度帰りに志摩子を見かけたことがあった。
久しぶりに見る志摩子は相変わらず清楚で可憐で、そしていつものふんわりした雰囲気だった。それだけで私の鼓動は速くなる。 すぐに話しかけようと思った。
でも隣には乃梨子ちゃんがいて二人は本当に楽しそうで、それは志摩子にとっていいことのはずなのに、それを見たとき私はもうその場にはいられなかった。
高等部はこんなにも近いのに、志摩子がとてつもなく遠く感じた。

ただ心の中で繰り返す。

これでいい、これでいい、これでいい――――。
頭では分かっている。
これでいい。
これでいいはずなのに―――――――――――――――


そこで私の思考は途切れた。ふと鳥の声が聞こえたのだ。
カーテンからこぼれる光はさっきよりずっと明るい。

やめよう

せっかくの気分のいい朝になんだかいろいろ考えてしまった。
ようやくカーテンを開けて、窓も開けて空を見上げる。空は私の心とは違って晴れ渡っていた。

さて―――

ようやく私は動き出す。
気分は・・・、少しブルーだ。


単なる偶然か、それとも運命のいたずらとでも言うのだろうか?志摩子から電話があったのはそんな日のことだった。







あとがき
とりあえず続きました。たぶん次で終わりかな?なんというか聖がちょっと重い人間過ぎる気がするけど、きっと心に闇を抱えて生きてるんですよ・・・・・ねぇ?きっと、たぶん、そういうことで。
以下、嘘っぱち予告(Shining Tears X Wind 7話の予告風)

ロサ・ギガンティアーズ・クロス・キリスト
次回は・・・

聖:かつてシオリという名前の少女がいた。
  少女はヴァチカン第十三課、特務機関イスカリオテのエクソシストとして仲間とともに世界を吸血鬼から救った。

志:英雄ですね!!
聖:(マヂカヨ・・・。)
志:でもその人はいまどこにいるんです?
聖:どこにも、いない・・・。
志:って、お亡くなりになったのですか?
聖:それは―――――

EPISODE 3
白薔薇×栞

心の銃を、撃ち放て