―――――あなたのそばに―――――
志摩子――――
志摩子――――――――――
声が聞こえる。私を呼ぶ声。それは徐々に大きくなっていく。
「志摩子。ちょっと……、志摩子?ちゃんと聞いているの?」
ふと我に返る。私を呼んでいたのは祥子様だった。
「ぇ…………、あ、あのっ、すみません。少しぼーっとしていたみたいです。」
「もぅ…、この忙しい時にこんなことでは困るわ。あなた白薔薇さまなのよ?たまにはぼーっとするのもいいかもしれないけど、今は会議中なのだから後にしていただきたいものね。」
「申し訳ありません………。」
本当に祥子様の言う通りだ。
会議中だというのに自分の右手首をぼーっと眺めて何をやっているのか・・・。それも自分が呼ばれても気付かない程。乃梨子も心配そうにこちらを見ている。
そう、私は白薔薇さまなのだ。しっかりしなければ。
ロサ・ギガンティア
それはほんの数ヶ月前までお姉さまが呼ばれていた称号。けれど今は私が呼ばれている称号。
そのことが表すのはつまりお姉さまはもう卒業されてしまったということ。
ふと気になったのだ。半年間右手になじんだ感覚が今はないことが。そしたらお姉さまを思い出してしまった。
会いたい―――――。
そういえば乃梨子を妹にする前にもこんなことがあった。
乃梨子とは姉妹になれたし、祥子様に令様、祐巳さん由乃さんという大切な仲間もいる。
それでも私の心はあの時から変わらずにお姉さまを求めている。
お姉さまがいないことは普通になってしまったけど、私の中にはずっといるのだ。
そしてそれは乃梨子がそばにいてくれる今でもなにより大きい存在だった。
その日の会議はそのまま集中できるわけもなくて気がつけば終わっていた。
祥子様もそのことを分かっていて少し早めに切り上げてくれたのだろう。
帰り道。
となりを歩く乃梨子がまだ少し気にしているのかさっきのことを聞いてくる。
「志摩子さん、今日どうかしたの?会議中にぼーっとしちゃって。」
「ううん、なんでもないわ。ちょっと考え事をしていただけなの。」
「そう、考え事・・・。」
なんの、とは乃梨子は聞かなかった。もし聞かれていたら私はどう答えるつもりだったのだろう。
私とお姉さまは周りからはあっさりした姉妹に見えたかもしれないけれど、私はいつもお姉さまの存在を感じていたし、お姉さまを思っていた。
そして今もお姉さまを思っている。
でもときどき考える。お姉さまはどうなのだろう、と。
ほんとは私がお姉さまを思っていればいいだけなのに―――。
今もお姉さまの中に私はいるだろうか?
それを考えると少し心に影がさす。楽しそうにはしゃいでいる大学生を見たときと同じような気持ちが私を満たす。
またお姉さまと並んで歩きたい。あなたのそばにいたい。
それはお姉さまを縛ることかもしれないのに・・・。
それでも私はそう思わずにはいられなかった。
次の日の昼休み、一人薔薇の館でお弁当を食べていると祐巳さんがやってきた。
「ごきげんよう、志摩子さん。」
「ごきげんよう。」
挨拶をかわすと祐巳さんもお弁当を広げはじめた。どうやら彼女もここでお昼をいただくようだ。
世間話などをしながら一緒にお弁当を食べる。
祐巳さんといるときはいつもなんとなくほっとできて心が安らぐ。
先に弁当を食べ終えた私は弁当箱を片付けて窓から外を見る。ただぼんやりと眺める。
何もしたくない、何も考えたくない。午後の授業なんて休んでずっとこうしていたかった。
しばらくすると祐巳さんも弁当を食べ終えたようで横で一緒に外を見ていた。
「志摩子さんさ、最近何かあった?」
「え?」
いきなりな祐巳さんの問いかけ。
「えっと・・・ほら、なんか昨日ぼーっとしてたし何かあったのかなって。」
ああ、祐巳さんは私に会いにここへ来たのか。
「ううん、特に何もないわ。心配かけてごめんなさいね。」
「そう・・・。」
祐巳さんはあまり納得していない表情だ。
「あのさ・・・言うなって言われてたんだけど、朝乃梨子ちゃんに会ってね。志摩子さん昨日の帰りもどこかいつもと違うからそれとなく聞いてみてくれませんか、って。」
「そう、乃梨子が・・・。」
あの後、自分では普段通りのつもりだったけれど、どうやらそうではなかったらしい。
乃梨子はすごく気が利いて、いつだって私のことをとても大切に思ってくれている。とてもまっすぐで優しい子。
そんな乃梨子と一緒にいても私の心はお姉さまにとらわれている。私はそんな自分が自分で嫌だった。
「特に何かあったとかそういうのじゃないのよ・・・・、ただ・・・最近気がついたらお姉さまのこと、考えているのよ・・・。」
「聖様のこと・・・。」
「情けないでしょ?卒業した人のこといつまでも。」
「そんなこと」
「弱い人間なのよ、私・・・っ!?」
急に祐巳さんに抱きしめられた。驚きで声がでない。
「志摩子さん。」
「ゆ・・・祐巳・・・さん?」
「そんなことない。情けなくなんてない。常に強くある必要なんてないんじゃない?たまには弱みを見せてもいいと思うよ。誰だって弱い部分はあるんだから。でも・・・私は今みたいな志摩子さんも好きだよ。」
耳元で優しく語りかけてくる祐巳さんの言葉で私の胸はとても温かくなった。
本当にいつも祐巳さんには救われる。
「祐巳さん・・・・・・ありがとう。」
まっすぐ祐巳さんを見つめて言う。めいっぱいの感謝を込めて。
夜。布団に入って目をつむる。
いつものようにお姉さまのことを思い浮かべる。
いつもはただそれだけ。でも今日は違った。
―――会いたくて、会いたくてどうしようもない時はさ、会いに行ってもいいんじゃないかな。
お昼の祐巳さんの言葉がずっと頭から離れない。祐巳さんと話してすこし前向きになったのだろうか。
会いたいと思った。そして会おうと思った。
あとがき
いやぁ、ほんとロザリオの滴の志摩子さんはかわいすぎですよね。
桜の季節が終わって、すっかり吹っ切れたと思っていた。けれど全然だめだった。とか、
本当は、だめな自分でもいいから、一目お姉さまの姿を見たかった。ただ困らせるだけだとしても、話を聞いて欲しかった。とか。これはもう世界遺産だ。
全然関係ないけどシャイニングウィンドのクレハがかわいすぎる。志摩子に似てるしねw あと、ライディーンすげぇ萌えるwwカッコヨスギ!!というわけで次回、あなたのそばに(2)に、フェードイン!(たぶん)