目の前は真っ暗で消毒薬のにおいがする。
乾いた喉とひんやりと湿った額。
しゃりしゃりと澄んだ音が聞こえる。
放課後の保健室、ベッドに転がしたままの身体は泥みたいに重い。
昨日の夜出歩いたのが原因かもしれない。
コンビニ帰りの夜空に見つけた謎の光。
追いかけて追いかけて気付けば真夜中。冬空の下、何時間も走り回ればバカじゃなくても風邪をひく。
それでも無理やり学校に来た私は3限の途中で倒れ保健室に運ばれたのだそうだ、と
古泉君が教えてくれた。
綺麗に剥かれていく林檎の側に赤耳の兎が並んでいる。ありがたいけど今は食欲がない。
放課後になってやっと気がついたとき、目の前にはSOS団のみんながいた。
安心したみたいに笑う古泉君の横でみくるちゃんがぼろぼろ泣いている。
-目が覚めてよかった、病気で授業中に突然倒れたって聞いて私どうしていいかわからなくて結局何も出来なくて-
涙まじりのうえ途切れとぎれでほとんど聞き取れなかった声は多分そんなことを言ってたんだろう。
よかったとごめんなさいを繰り返すみくるちゃんを思い切りだきしめる。
びっくりしたのか腕の中で固まったみくるちゃんにありがとう、って言ったらわんわんべそかいてしがみついてきた。女の私でも離したくないって思うほど可愛くって泣きやんでもしばらく抱き締めていた。
有希はいつもの無表情で最後まで座ってたけど保健室をでるとき
「特効薬、飲んで。」
と白いカプセルを渡してくれた。
風邪の特効薬って作れたらノーベル賞が貰えるとか聞いた気もするけど有希がくれたものなら多分間違いないだろう。
「お大事に」と古泉君。
心配そのものの顔してまた泣き出しそうなみくるちゃん
さっきの薬を飲むまでずっと私を見つめてた有希。
3人がいなくなって保健室は急に静かになる。
倒れこんだベッドは少し固くてスプリングの軋む音がした。
安っぽい造りの天井をみつめながら私は、こんなときまで遅刻してくるSOS団雑務係にどんな罰ゲームをさせてやろうか考えていた。