白い肌によく映えた
「お前頭おかしいアル。」
「おかしいのはてめぇの細胞でぃ」
仕事道具の業物にぬるりと付着したそれは
鉄の色との対比と
まして刃面を伝い滴る様がやけに官能的で紙なんかに吸わせるのは勿体ない。
「銀ちゃん言ってたヨ。レディの顔に傷つけたら人生お終いアル。慰謝料がっぽり取られてケツの毛まで抜かれるネ。」
「そりゃあイイコトきいた。近藤さんに教えてやったら喜びまさぁ。」
頬にひとつ右手にひとつ、細く赤く浮かぶ刀傷。
噛み付いた痕なんて瞬く間に消えてしまうから、
夜兎の血
天人だの種族だのどうでもいいと思っていたがこれはなかなか疎ましい。
掴んだ右手のもう血の止まった傷口をなぞるように指を這わす。
「近藤さんは一生ケツ毛まみれでしょうぜぃ。」
いかんせん人が良過ぎる
「こんなコト死んでもできやしねぇでしょうから。」
塞がりかけた傷に爪をたてて
鉄の匂いに
ぬかるんだ音に
肌をとおさぬ肉の温度にアタマが痺れる。
声を抑えるしぐさでもあれば少しは可愛げもあるのだけど
いてぇんだよ、と人中に一発
左拳を見舞われて酔いから醒める。
あぁこれだから飽きないと、
振り払われるまで抉っていた傷口は
やはりもっと深くすればよかった。
「次会うまでに全身脱毛して金つくっとくアル。酢昆布だけじゃ足りないネ。よっちゃんイカと…うまい棒も箱ごと買えるぐらいの額ヨ。」
「そりゃ大金だ。まぁ土方さんの内臓売ってでも準備しますぜぃ。」
三日後に取りに来るアルと、
乱雑に服を羽織って出て行く。
結う暇がなかったせいか
今日は肩に垂れる髪が
意外に細く長いのだと知って
…次にあったら少し切り落としてみようか、
手の平で固まった自分の血がやけに黒ずんでみえた。